| 1.概要 |
| 私は2000年に初めて北極を訪れて以来、昨年今年と連続して北極を訪れました。1999年に大学を辞めてから、何をするべきか分からずに
迷っていた時に出会ったのが北極でした。北極を歩いてからは、ここには自分が全力を傾けて臨む価値のある何かがあると感じてきました。 もっと強くなりたい、充実した人生を送りたい、納得した時間を過ごしたい、全力を傾けるとはそんな思いの具現化した行動だと思うのです。 一度しかない人生だし、納得しなければ損でしょう!と思いながら日々生きています。 私の2003年の旅はレゾリュート(Resolute)からケンブリッジベイ(CambridgeBay)までの1000kmを無補給単独で踏破する計画です。 レゾリュートとケンブリッジベイは共にカナダのヌナブト準州の町で、北極圏に位置します。レゾリュートからスタートし、凍結した海の上を1000km 歩きケンブリッジベイに至ります。このルートはかつて植村直己さんが犬ぞりで走っており、昨年は小嶋一男さんという冒険家がグループでやはり犬ぞりで 走っています。北極点以外の北極冒険のデータベースなど皆無なので、かつてここを歩いた人がいるかは分かりません。世界には変わった人はいるので 誰か歩いた人がいるかもしれません。 |
| 2.方法 |
| 2003年の旅は1000km無補給単独徒歩行です。つまり一人で歩いて物資の再補給を受けずに歩き切ります。40〜50日で到達できると見込んでいるので、
スタート時に50日分の食料燃料をソリに積み込んで出発します。ソリの重量は100kg以上になると思われます。ソリを体とロープで繋ぎ、
引きながら歩いて行き、一日の行動が終わるとテントを張ってキャンプをします。 ルート上に人工物は一切無く、当然人と会うこともありません。そのかわりホッキョクグマと出会う可能性があります。ホッキョクグマは餌のアザラシを探して 海氷上を歩き回っており、人間を見ても好奇心で近付いてきます。クマ対策としてベアスプレー(唐辛子のエキスの詰まったスプレーで、クマの目や鼻に向けて 噴射する)を持参します。ライフルを持つかどうかはまだ決めていません。 |
| 3.日程 |
| 2003年2月下旬に日本を出発します。レゾリュートに入った後、1〜2週間ほどトレーニングし、3月中旬にスタートします。4月の下旬から5月の上旬 にかけてケンブリッジベイに到着します。 |
| 4.気候 |
| 3月から4月の北極は冬が終わり春に移り変わろうとする時期です。それでも気温は−45℃程度にまで下がります。3月中旬だとレゾリュート周辺の日照時間は
12時間程度で、完全な白夜になるのは4月の終わりごろです。 風は基本的に天気が良い時は北から西にかけた北西方向から吹き、南東方向から風が吹き始めたら天気が崩れる前兆と言えます。気温が低いと雪がしまっていて 軽いので、いざ風が吹き始めると粉雪を舞い上げたブリザードになります。気温が上がってくると雪も多少の水分を含んで重くなるのでブリザードになりにくく なります。ブリザードの時には台風並みの風速40m/s以上の風が吹き、とても歩くことは出来ません。 北極では凍った海の上を歩いていきます。氷は数メートルの厚さで張っていますが、海流の影響などで氷が割れ、海の出ている場所(ポレニア)もあるかもしれません。 しかしそれが何処にあるのか誰も分からないのが北極の難しさであり魅力でもあります。乱氷帯やポレニアの出来かたは毎年全く違っていて、現場に行ってみないと どうなっているのかは分からないのです。 |
| 5.考えられる危険と安全対策 |
| 危険の無いエクスペディションはありません。しかし万全の準備と最大限の注意で危険に出会う可能性を低くすることは出来ます。 北極で遭遇する危険として挙げると、まず薄い氷を踏み抜いて海に落ちるという事があります。 回避法としては薄い氷には近付かない事しかありません。薄氷は厚い氷に比べて色が黒っぽく、一目でそれと分かるので目で見て判断します。 また氷が割れて海の出ているところ(リード、オープンウォーターなどと呼ばれる) は上空にウォータースカイという現象が現われます。これはリードなどの上空低いところに現われる筋状の雲で、遠くからでも認識できます。なぜリードの上空 に雲ができるのかというと、海水の温度が0度ほどでも外気温が−30℃や40℃にもなるとまるで温泉のように海水からモウモウと湯気が立ち昇り、その湯気が 低いところで雲になるのです。そうやって薄い氷の在り処を判断して回避していきます。 次にホッキョクグマと出会う危険性を挙げられます。ホッキョクグマは餌のアザラシを探して海氷上を歩き回り、主に臭いを頼りに活動しています。 嗅覚は犬並みで一キロくらい遠くの臭いでも嗅ぎ分けてしまいます。 歩いていて危険な出会い方としては、乱氷帯などの氷のブロックが点在するエリア内で、氷の陰からいきなり現われてバッタリ鉢合わせしてしまうパターンと、 テントで寝ている時に接近されて襲われるパターンです。どちらも回避法は存在しません。例えば犬ぞり行なら犬がクマの接近を知らせてくれるので危険は大幅に 減りますが、単独行の場合は自分で気付いて対処しないといけません。クマ対策としてベアスプレーを持参します。これは数メートルの接近戦の際にクマの目や鼻に 向けて噴射するスプレーで、唐辛子のエキスでクマを撃退します。スプレーは常に懐に暖めておかないと凍り付いて出なくなってしまうので、 いざという時にすぐに使えるように取り扱いには注意が必要です。またいざという時の為にライフルも所持します。 次に挙げられる要素として凍傷があります。凍傷は自分で予防することが出来るので、気を抜かずに注意を払うことで回避します。例えば濡れた手袋や靴下は 完全に乾かしてから使う、外気には手足をさらさない、十分な水分を摂る、我慢しないで寒いとか痛いと感じたらすぐに対処する、 といった基本的なことを守ることで凍傷を予防します。 |
| 6.通信手段 |
| 歩いている間の日々の通信手段として使用するのは衛星携帯電話イリジウムです。これはその名の通り信号を人工衛星経由で送る携帯電話で、 空の見えるところであれば地球上どこでも使うことが出来ます。また緊急時の発信機としてELT(EmargencyLocationTransmitter)を持ちます。 |
| 2002年10月22日現在 |